【書評】住野よる「青くて痛くて脆い」の感想【「キミスイ」と全然違いました】

2020年8月28日に公開された映画「青くて痛くて脆い」の原作、住野よるさん著、「青くて痛くて脆い」の感想を書きます!
買おうかどうか迷っている人のために、ネタバレなしで書きますね。

 

住野よる「青くて痛くて脆い」の感想

  • 概要
  • 誰におすすめか
  • タイトルの意味
  • 著者紹介
  • あらすじ
  • 特徴・感想
  • ちょっと深掘り

 

住野よる「青くて痛くて脆い」の感想

概要

人に不用意に近づきすぎないことを信条にしていた大学一年の春、僕は秋好寿乃に出会った。周囲から浮いていて、けれど誰よりもまっすぐだった彼女。その理想と情熱にふれて、僕たちは二人で秘密結社「モアイ」をつくった。――それから三年、あのとき将来の夢を語り合った秋好はもういない。そして、僕の心には彼女がついた嘘がトゲのように刺さっていた。傷つくことの痛みと青春の残酷さを描ききった住野よるの代表作。
(本書裏表紙、概要より引用)

↑書影はこんな感じ。鮮やかです。

 

誰におすすめか

就活を経験したorしている人
深みのある物語が好きな人
意識高い系の人
意識高い系の人をよく思っていない人
ほろ苦い経験がある人

こんな人が楽しめる小説だと思います!

 

タイトルの意味

この物語はタイトル通り、「青い」し「痛い」し「脆い」です。
誰しもが持っている人としての未熟さと、それゆえに傷つけ合ってしまう痛み。そんな人の弱さに、真正面から向き合った小説だと感じました。ぴったりのタイトルです。

 

著者紹介

著者の住野よるさんは、2015年に「君の膵臓を食べたい」でデビューしました。小説投稿サイトの「小説家になろう」からデビューしたということも話題になりました。
デビュー作が実写映画化、アニメ映画化されるなど大ヒットし、一躍人気作家の仲間入りをしました。
「青くて痛くて脆い」は著者にとって5冊目の単行本となります。

 

あらすじ

「人に不用意に近づきすぎないことと、誰かの意見に反する意見を出来るだけ口に出さないこと」をテーマとして生きている田端楓(たばたかえで)。大学に入学した彼は、秋好寿乃(あきよしひさの)と出会う。彼女は授業中に突然手をあげて、「この世界に暴力はいらないと思います」と高らかに発言する痛いやつだった。

彼女になぜか気に入られ、楓は彼女の友人となった。楓は秋好の中に、「自分の信じる理想を努力や信じる力で叶えようとするし叶うと思っている純粋さ」を認める。それを「痛い」と無下にすることができない自分がいることに気がつき、楓は秋好を受け入れていった。そして2人はある日、「四年間で、なりたい自分になる」という、これまた痛い目標を掲げた「秘密結社」的な団体、「モアイ」を作った。名前の付け方からして適当な、遊びみたいな団体のはずだった。

3年後、「モアイ」は大学内で大きな影響力を持つ、就活支援団体へと成長していた。大学で大きな顔をしている彼らを良く思っていない学生が大勢いるような状況だった。
楓は「モアイ」からとっくに離れていた。そして、リクルーターや経営者に作り物の笑顔を貼り付けてペコペコする就活生を量産し、他の学生に迷惑をかける今の「モアイ」を嫌悪していた。
理想を純粋に求めていた秋好jッあ、もうこの世にはいなかった。そして彼女の理想とはかけ離れた「モアイ」という団体が残った。

企業からの内定をもらい就職活動を終えた楓。大学生活を振り返ったときに、自分が創設に関わった「モアイ」のことが頭によぎった。このままでは、秋好が掲げた理想が「嘘」になってしまう。
楓は11ヶ月残った大学生活を、「モアイ」と戦うことに費やすことを決意した。

 

特徴・感想

特徴を3つにまとめました。

  • ライトな文章
  • 怒涛の展開
  • とにかく痛い!

 

ライトな文章

文章は非常に綺麗で読みやすいです。改行も多めな印象。
楓と親友の薫介(とうすけ)の会話、後輩のポンちゃんとの会話なんかも、大学生らしい軽いものが多いです。
しかしその中にも、住野よるさんならではの、細かい心情の機微が巧みに描かれていて、ときどき立ち止まって考えたくなるような、ハッとさせられる1文が不意に現れることも。

「ちょっと真面目な話、してもいいすか?」
「なんだよ珍しいな、優等生の俺ならいざ知らず楓が真面目な話なんて、何?」
一応「誰が優等生なんだよ」とツッコミを入れておいてから、僕は改まって、でも真剣な空気を作りすぎないよう、体は薫介に大して斜に構えて、切り出した。
「お前が嫌いな、モアイあるじゃん?」
「イースター島帰れよって思ってるよ」
「実は、あれ」
困ったような笑顔を作るのは、二十一歳になった僕の得意技だ。
「僕が、作ったんだよね」

(本文より引用)

例えばこんな感じ。
「困ったような笑顔を作る」のが得意技になるような3年間を、楓は歩んだのか。それはどんなだったんだろう?と、考えてしまいました。こういう微妙な人物表現の巧みさが、住野よるさんの数ある魅力の一つだなあと思います。

 

怒涛の展開

中盤まではゆったりめに話が進んでいくのですが、後半からは怒涛の展開でした。僕は没頭してしまって、一気読みしましたね。
ネタバレ防止のために詳しくは書きませんが、楓とモアイの戦いはどんどん加速していきます。そしてクライマックスを迎えてもなお、さらに追い討ちをかけるような展開。作者のメッセージ性もどんどん強まっていきます。
楓の思考の流れを追っていくことで、読み手の感情的にもかなり動かされました。物語や彼の思考の行き着く先が気になって、「ページをめくる手が止まらない」ってやつになりました。気がついたら数時間経っていた感じ。

ちなみに全部で3〜4時間で読めたかと。ご参考までに。

 

とにかく「痛い」!

ほんとに、読めば読むほど「痛い」んです。
特に最後の方は「痛い痛い痛い痛い!」ってなりました(笑)。きっと自分が未熟さゆえに失敗した経験とか、他人や自分の気持ちをちゃんと推し量れなかった経験があればあるほど、楓に自分を重ねてしまって、痛みを感じるんだと思います。人によっては、心の体力がかなり必要かもしれません。
ぜひ、楓と一緒に痛みを感じながら、読み進めていって欲しいなと思います。その先にはきっと、今まで見えなかった景色が広がっていますよ。

 

ちょっと深掘り

本書のテーマの一つは、「理想と現実」です。
例えば「世界平和」は理想ですけど、現実的には難しいですよね。実現するためにはみんなが一斉に銃を下さなくちゃいけないけど、「先に下ろしたら攻撃されたときに困る」とみんなが考えるから、下ろせない、とか。そんな現実的な問題がいくつも出てきます。
秋好の理想、現実として残った「モアイ」。その現実と戦うと決めた楓が、最後に行き着いたのはどんな答えだったのか?
ぜひ最後まで読んで、自分の考え方と照らし合わせてみて欲しいなと思いました。

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以上です!