村上春樹の短編小説集「カンガルー日和」【わからない。でも面白い】

村上春樹の短編小説集「カンガルー日和」
本書の収録作を、5つご紹介します。

“ここに集めた23編の短い小説――のようなもの――は81年4月から83年3月にわたって、僕がある小さな雑誌のために書きつづけたものである。この雑誌は一般書店の店頭には出ない種類のものなので、僕としては他人の目をあまり気にせずに、のんびりとした気持ちで楽しんで連載をつづけることができた。”
(あとがきより)

カンガルー日和

動物園に、カンガルーの赤ちゃんを見に行く話。

「彼女」と僕の軽妙な会話がクセになります。

柵の中には一匹の赤ちゃんカンガルーと父親であろう雄カンガルー。そして二匹の雌カンガルーがいます。“母親じゃない方のカンガルーはいったいなんなんだ?“

よくわからないのになぜか面白い。独特な味わいがあります。

“これまで女の子と議論して勝ったことなんて一度もない。”という一文に深く共感しました。笑

4月のある晴れた朝に100パーセントの女の子に出会うことについて

100パーセントの女の子とすれ違うお話。

「100パーセントの女の子」とは「運命の相手」といった意味のようです。

運命の相手と何もせずにすれ違ってしまった「僕」は、どう話しかければ良かったのかを考えます。辿りついた答えは、「昔々」で始まり、「悲しい話だと思いませんか」で終わる、長い科白でした。

あしか祭り

家に突然現れたあしかが、寄附を強要してくる話。

「僕」はあしかに麦茶を入れ、たっぷりと話を聞かされた上に、寄附と称して2000円取られます。強引なセールスとか、怪しげな宗教団体といったものがモチーフになっているのでしょうか?

こういう人っているよなー、って共感しながら読みました。人じゃなくてあしかなんですけどね。笑

スパゲティーの年に

面倒な知人女性に電話越しで嘘をつき、後悔する話。

前半部分は、「僕」にとって1971年が「スパゲティーの年」だったということが語られます。「僕」によって作られ、食べられた種々のスパゲティーが列挙される、独特な文章です。笑

後半、知人女性から電話がかかってくる話に移ります。

元恋人の男性を探している彼女は、男性の友人である「僕」に彼の居場所を尋ねます。「お金を返してもらわないといけない」などと切実な様子です。「僕」は面倒を避けるために教えたくないのですが、ごまかすことが段々と難しくなります。そこで、「今、スパゲティーを茹でているところだから」と苦しい嘘を言い、電話を切ります。

こういうとき、あなたならどうしますか?

図書館奇譚

「僕」が図書館の地下にある世界を探検する話。

ショート・ショートのような短い話ばかり収録されている本書の中で、唯一普通の短編並みのボリュームがある一編です。「連続ものの活劇を読みたい」という著者の妻の要望にこたえて書かれ、雑誌連載の形をとられた話だそう。

地下の牢獄になぜか囚われた「僕」は、「羊男」と「美女」に出会います。彼らの助けを得て牢獄からの脱出を目論見るという展開です。

「羊男」と言えば、長編小説「羊をめぐる冒険」など、村上作品に度々登場する名前です。「僕」の分身のような存在だと示唆されることもしばしばですが、本当のところは分かりません。

図書館奇譚も解釈のし甲斐がある良作だと感じました。

本書『カンガルー日和』には全部で23編の短編(掌編)小説が収録されています。どれも読みやすく、クセになる話ばかりです。

以上です!